田村泰次郎文学における女性登場人文物の考察 『春婦伝』を中心に

Citation:
田村泰次郎文学における女性登場人文物の考察 『春婦伝』を中心に, Mohamed, Amal Sabry Elsayed , (2016)

Abstract:

第二次世界大戦が終了してから、今年で70周年となる。日本は、毎年の終戦記念日に合わせて、この悲劇的な経験を若い世代に伝え、二度と悲劇を繰り返さないために、平和の重要性や核兵器廃絶の必要性を、国を挙げて世界に訴えてきている。
 また、日本において、この戦争に対する関心は高く、今でも、様々な視点から戦争や敗戦について扱った書籍が次々と発表されている。戦争とそれに続く敗戦の経験は、当時の人々の人格形成に大きな影響を及ぼした。戦争を生きた多くの日本人作家が、それらの壮絶な経験を作品にしたためている。これらは「戦後文学」といわれ、作家の中には、徴収兵として前線で武器を持って戦った者もいる。アジアの前線で戦った徴収兵達の日本への帰還、および、長期に渡った戦闘とそれに続く敗戦による精神的トラウマなどは、「戦後文学」における重要なテーマとなっているが、田村泰次郎も、多くの短編・中編小説を発表した「戦後文学」作家のうちのひとりである。田村の作品の多くは、中国の前線への自身の徴兵体験や、中国における戦闘、敗戦、そして日本への帰還などの重要なテーマを扱っているが、肉体の開放と(当時)自由な性表現が多く使われた初期の作品が注目をあつめ、長年、風俗小説作家としてカテゴライズされてきたため、これまで、同氏の作品は、「戦後文学」としての十分な研究がなされてこなかった。しかし、田村が、他の戦後文学作家に先駆け、戦場における女性像を生き生きと描写したという点は注目に値すべきである。中国戦線における従軍慰安婦や、日本で留守を守る兵士の母親や妻、パンパン達。彼らの立場は、これまでの「戦争文学」のあり方に新しい視点を加えた。本論文では、この点を中心に分析していきたいと考えている。
 まずは、簡単に田村泰次郎の生まれ、生い立ち、文学活動に触れたい。
 1911年11月30日、三重県に生まれた泰次郎は、父の薫陶を受けながらたくましく育った。泰次郎は、中学時代から、剣道とともに文芸作品の創作にも積極的に取り組む文武両道の学生だったと言われる。級友とともに同人誌「街燈」を創作し小説を発表するなど、早くからその多彩性を発揮した。
 泰次郎は第二早稲田高等学院を卒業後二年制予科で勉強した。予科在学中の1930年12月には、同学科の学生と共に雑誌「東京派」を創刊している。東京派は六号まで続き、泰次郎は小説『成長記』『病気』『文学』『仏蘭西の新しい雑誌』、や評論『活動的言語と現実』などを発表した。
 1931年4月に早稲田大学文学部文学科仏蘭西文学専攻に進学した後も、フランス文学の最新の方法をとスタイルを学びながら、自らの個性的な作品を発表し続けた。1933年5月に文学雑誌「桜」の創刊号に、田村泰次郎が長編小説『をろち』を発表したが、残念ながら未完成に終わった。1934年3月に卒業した田村泰次郎は、その後、新人作家として華々しく文壇に名を連ねることとなる。田村の転機となったのは、1940年から、陸軍の応召を受け、中国大陸における足掛け7年にわたる戦場体験である。戦場において、田村は軍隊の非道性と現地の人々無残な姿を目の当たりにした。この心に刻印された戦争体験は以後の泰次郎に人間の尊厳とは何かを問いかけることになった。田村が中国戦線を戦っている間に刊行された『強い男』『銃について』、及び『学生の情熱』は好評を博した。1946年に復員した田村は、同年に『肉体の悪魔』、また、1947年に『肉体の門』を発表した。『肉体の門』及び『肉体の悪魔』は、肉体の開放は人間の解放であるとの衝撃的な主張をもって、当時の世間の話題を呼んだ作品である。そして、1983年11月2日、永眠した。
 田村泰次郎は、上述のように、『肉体の門』及び『肉体の悪魔』の強烈な印象から、長年風俗小説作家としてカテゴライズされてきたため、これまで、同氏の作品は、「戦後文学」としての十分な研究がなされていない。占領期や植民地文学、戦後文学の研究が進むなか、田村泰次郎の作品が改めて読まれ、田村の「戦後文学」としての研究範囲が広がることを期待している。
 2011年から今まで、田村泰次郎の数多くの作品を読んできた。特に戦後(1946年~1951年)に執筆された作品を精読し、またそれに係る先行研究や書籍などを詳しく調べた。田村泰次郎の作品の数多くに、従軍慰安婦や、戦後日本のパンパンたち、敗戦後、日本へ戻って来た生き残された軍人たちの母親が現れる。要するに、田村の戦後作品は主に戦争に召集された兵士たち男性を主人公に、その母親か、肉体関係を持った女性(パンパン乃至従軍慰安婦)が女性主人公に設定されていることが

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